捕手のブロック

審判・高橋 秀男


 昨年、ジム・エヴァンス(アメリカ野球審判学校の校長先生で私の尊敬する恩師です)氏が来日し、初のアマチア審判のための講習会を開いた際、数人の審判仲間と野球談義に花が咲きました。
 
その時、各自の審判員としての「こだわり」が話題に上りました。
「私は絶対ラインを引かない、グランド整備もしない。何故なら、私は審判員であって、グランド整備員ではないからだ」
また、「審判の命はラインです。真っ直ぐに引いてないラインを許せない」
「服装には気を使います」「用具にこだわります」 
「野球規則(ルールブック)にこだわります」 などなど。

 その時私は、「選手の怪我にこだわります」と言いました。

 適度な運動で、いい汗をかき、また明日からの活力となるのが、「スポーツ」です。そしてルールのもとに、勝敗を競うのが、「スポーツ競技」でしょう。

日本野球のルーツは、明治新政府が雇った「先進国アメリカの先生」が新しい国家指導者とならん日本の学生(東大の前身)に教えたのが始まりとされています。
(佐山和夫 著・「明治5年のプレーボール〜初めて日本に野球を伝えた男〜ウイルソン」NHK出版刊、発行・2002.8.30)

 したがって、わが国の野球が「学生野球」からスタートしたのが、ベースボールと違う道になったようです。

 そして当時の軍国主義的とも重なり合って、いまでもその性格が野球の根底に流れているようにもみえます。

 さらに硬式に比べて安全で安く、をもとめて作られた軟球。
 肉体的にも精神的にもリフレッシュするという「スポーツ」本来のものからすれば、一般大衆や若年層への普及に貢献している日本独自の「軟式野球」はまさに「スポーツ競技」といえます。

 いま、その先人達のお陰で、私たちはその恩恵を享受し、気軽に野球を楽しんでいます。反面その安心からか、ヘルメットや帽子を着用しない者が現在、多くみられことは、とても残念です。また、つい勝負にこだわりすぎての「ラフプレイ」まで。

 学生野球から発展した日本の野球は、その後多くの連盟が派生し、夫々の独自性が強くなってゆきました。つまるところ、鎖国的性質も強くなり、国際的にも置き去りとなっていたところがありました。

 昨今のオリンピックにおいて、やっと国内のプロ・アマの垣根が低くなり、国際的な場面で恥ずかしくないものにしようとの機運が高まってきたのが日本の野球の現状です。
 その底辺にいる私たち草野球にも、それらの情報が徐々に届き始めているところです。

 野球の発展経緯から現状を大雑把に述べましたが、その基本は、楽しく、スリリングな、そして健康的な競技を目指すものであります。

 ましてや私たちは、それで生計を立てているプロではありません。怪我をして、いやな思いをするのは、本人だけでなく、チームの仲間やまた相手のチームの皆さんでもあります。勿論、審判員も決してよい気持ちにはなれません。

 選手の皆さんのなかには、様々な経由でこのリーグに参加されていることでしょう。少年野球や高校野球の甲子園体験選手から全く野球未経験者まで。しかし、「楽しい野球をプレイしたい志」は、一緒のはずです。

前置きが長くなりました、捕手のブロックについて述べましょう。

 まず、ホームプレート(ホームベースとは間違った名称です)は、1塁・2塁・3塁ベースは異なった形状をしていますが、塁としては同じ意味をもっていることを確認いたします。

 ベースボールの長い歴史にそのような形状に変化する必然性があったのですが、その話は、またの機会に書きましょう。

 つぎに、本塁以外の塁付近でのタッグプレイ(タッチプレイは誤表現)を考えてみてください。
 ベースの形状からもその上に野手の足が乗っかるでしょうか?また、走者のライン上をふさぐ行為が危険なプレイと理解できます。

「ホームベース(敢えて間違いの表記をします)の一角を空けていれば、走塁妨害にはならない」と誤解されている選手をみますが、これは間違いです。

 プロ野球中継の評論家(野球ルールを熟知していない)が解説、同様な野球指導者によって学生時代に教えられた、また審判員が訂正注意を怠ってきたなどが、誤解の原因と考えられます。

 野球規則2・51定義・オブストラクション(走塁上妨害)には。
「野手がボールを持たないときか、あるいは、ボールを処理する行為をしていないときに、走者を妨げる行為である」と表記しています。

 タッグプレイにおいて、既に送球を受けて走者を待ち受けている状況では、ベースやホームプレートの前に立ちはだかっても許されます。

 しかし、塁付近でのきわどいタッグプレイの際、野手はベース・プレートの前(投手側)に位置して走者にタッグされるのではないでしょうか。
 捕手は、本塁が平たい形状(プレート)のため、またレガースを利用してのブロックを試みますが、常にベースの一角しか踏めないと理解してください。

 そうすると、本塁を目指す走者は、回りこむスライディングを企てることが出来ますし、さらにスリリングなプレイに昇華されるのです。頭からのスライディングも安全になり多くなることでしょう。

 本来捕手のレガースは、投球を自分の足から守るための道具であって、決して走者のブロック用ではありません。

 勝負にこだわり過ぎて、危険なプレイになることに対して警笛を鳴らすのが、この文の本意です。

 勿論、野球プレイ技術の向上は望むところで、日々切磋琢磨で編み出されたプレイには、それなりの努力と評価いたします。

 しかし、それが選手の怪我に繋がるプレイであるなら私は、許せないのです。

 私たちが理想とする「楽しいスリリングな野球」を実現させようではありませんか、
 一緒に目指しませんか。

(平成16年10月29日)



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