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最新アンパイアー・メカニクス(四人制)−前編

#47 K.O審判員


 日本アマチュアー野球連盟から「審判メカニクスハンドブック第3版」が発行された。

 その中の二人制メカニクスは、元マイナー審判員により新しく編纂された。今までのものよりも格段に分りやすく、二人制がより身近なものになっている。

 従来、内野内に飛んだラインドライブのCatch/No Catchは、球審の判定責任だったが、捕球面(Face on glove)を確認できた審判が判定することになった。この変更は、ベースボールの発祥地、米国の審判の責任分担(Umpire Responsibilities)に相応し、国際基準に適応したものになった。

 特筆すべきは「RIMMING」の採用と二人制において「PAUSE」、「READ」、「 REACT」という文言が日本で始めて公式の文書に登場したことだ。

 今までの「GO」、「STOP」、「LOOK」、「CALL」の意味合いをすべて含んだ審判員の基本動作となるものである。 
 そして三人制、四人制でも必要とされるメカニクスであると云うことは言うまでもない。
 
 この意味合いをよく理解し、自分自身のスキルとして身に付ける必要がある。



写真1
本塁上で審判団と両監督の交歓


A game of International League.本塁付近でメンバー表の交換と審判団と交歓する両チームの監督。PU: Justin Vogel, 1BU: 平林岳 and 3BU: Crew Chief R.J.Thompson(Crew chief)
2009年7月26日撮影
Louisville Bats VS Syracuse Chiefs at Alliance Bank Stadium Syracuse, NY.


 さて、最新の審判メカニクスを幾つか紹介しよう。

 最初に言っておきたいのは、これから紹介するメカニクスはあくまで3AやメジャーのAdvanced Mechanics(一段上のテクニック)で、我が国の基準的なメカニクスではない。

 しかし、野球技術の進化に伴い審判メカニクスも変革していることを窺わせる。

 また、その中の一部には上級の野球技術を持ったチーム同士の試合でしか実践できないメカニクスもあることをご理解願いたい。
 その際には相当のアンパイアー・スキルが必要とされ、クルー全員がそのメカニクスを理解し体得していることが肝要だ。

 以上のことを理解したうえ、参考にしてもらえれば幸いである。

1.先ずは必殺「リミング(Rimming)」

 一昨年、カリフォルニアで開催されたMajor Umpire Campでは「RIMMING」
が盛んに指導されたと聞く。

 メカニクスとしては走者一・二塁、一・三塁、二塁、二・三塁、満塁で三塁塁審が打球を追ったとき、一塁塁審は位置している場所と二塁を結ぶ線上の内野後方から打球を注視しながら左肩越しに打者走者の一塁触塁の有無を確認、走者に先んじて二塁キャンバス手前3メートルくらいの位置で止まりプレーに備えるというもの。



写真2
リミングする平林1BU

「必殺リミング」左肩越しから打者走者の一塁触塁を確認し、走者に先がけて二塁へリミングする平林岳3A審判員。2009年7月26日撮影 Alliance Bank Stadium Syracuse, NY.


 利点としては
(1)打者走者の一塁触塁をしっかりと確認できること、(2)打球や送球を正面から見ることができ、(3)二塁でのプレーが崩れた時(落球、ノータグ、送球が反れた場合など)にアジャストメントしやすいのが利点だ。
(4)また、二・三塁間でランダン・プレーが起きたとき、三塁へスライドした二塁塁審との間で相応の位置が取れる。
※(内野内でスライドした二塁塁審と二塁へリミングし、ベースの外側に位置した一塁塁審が内と外からハーフ&ハーフでプレーを見ることが容易)

  リミングする上で大事なことはWatch the ball, Glance at the runners.
  (ボールを注視し、打者走者をチラッと見て。俗に云う欽ちゃん走りが最適)
※欽ちゃん走り=顔を斜めに向けて走る(目線を肩越し方向へ向ける)萩本欽一氏こと欽ちゃん独特の走法。

 このとき内野内に位置している二塁塁審は、一塁塁審がピヴォットしたか、リミングしたのかに関わらず、スライドして来ているかどうかを確認できるスキルが必要だ。
 それを確認し、二塁塁審は三塁方向へスライドしていくのだから・・・。

 メカニクスをよく理解し、研鑽してみてはいかが・・・?

 最も難しいとされる三人制では動きが若干違うものの、リミングの要点は同じ。

 なお、二人制ではリミングはせず、ピヴォット・ターンし打者走者に先んじて次塁へスライドしていくのが基本である。

2.一塁ホースプレーの判定位置

 「一塁のホース」の基本メカニクスは送球に対し90度の角度で、ベースから凡そ5〜6mの距離を取りプレーに正対し、HANDS ON KNEE SET(手をひざに置いて)で構えるとされている。

 最新の「一塁ホース」はベースから7〜10メートル位の距離をとり、野手の捕球面が見える位置まで二塁方向へ鋭角的に入るというもの。

 目安としては一・二塁間のおよそ1/3くらいの位置で、いわば送球に向かっていくような感じだ。



写真3
一塁ホース「Safe」


 一塁で「セーフ」をコールする平林岳3A審判員。これは通常の一塁ホースの位置取り。ここで紹介しているのは送球に対し鋭角的に二塁方向へ(写真では左方向へ)入り野手の捕球面を確認出来る位置取りをするメカクスです。実際の写真がないのでイメージしにくいが理解の程を・・・。写真:UDCより


 このメカニクスをするためにはプレーを読む力と俊敏な動きや脚力が今まで以上に要求される。
 それと同時に上級の野球技術を持ったプレーヤーの試合に限られるのはいうまでもない。

 なぜか・・・?

(1)一塁への送球が安定しているということ(送球がそれたときに起こるスワプ・タグが観にくい)
 ※Swipe Tag=拭うようなタグのこと。横殴り、掃く様なタグや追いタグなど。

(2)野手のベースタッチが確実であることだ(野手の足がベースから離れた、いわゆる「Off the Bag」が観にくい角度へ入っている・・・)

 ゆえに、捕球面をしっかり確認できる位置取りが最優先にされる考え方だ。そして、このメカニクスは二塁と三塁でのホース判定にも応用できる。

 一方、( )内はこのメカニクスの最大の欠点でもある。
 欠点は最大の利点でもあるが、利点を活かして実践するには少なくても高校生以上の試合が相当で、それ以下の試合ではなかなか難しいものがあるといえよう・・・・。
 一度お試しあれ・・・。


3.走者一塁での二塁塁審の位置取り

 クロックワイズ・メカニクスが我が国に導入されてから今年で10年目のシーズンを迎える。そのシステムもいくつかの変更と刷新をされ今日に至っている。
 特に著しい変化は二塁塁審の内野内での位置取りではないだろうか。

 当初は本塁と投手サークルの外縁を結んだ一・二塁線上の大よそ1メートル内側の位置と指導された。



写真4
2BU:M・エベレット。1BはJ・オルルッド

走者一塁で一・二塁間に位置する2BUのMike Everitt。 一塁手は懐かしやJohn Olerud。
2005年9月3日撮影 Orioles VS Red Sox at Fenway Park, Boston.


 その後、走者が盗塁した時に判定距離が遠すぎる(プレーに近づけない)とのことで、当初の位置から二塁方向へ少し寄った位置へ変更。
 そして、一・二塁間からまったく逆の二・三塁間方向へと位置取りの更なる変更がなされたのが凡その経緯であろう。

 では、何故二塁手寄りから遊撃手寄りの位置取りへと変更、指導されたのか?

 それは遊撃手寄りに位置したほうが左足を一歩リードするだけで盗塁時の判定がしやすいといった安易なものだったのではないか・・・。
 (クロックワイズ・メカニクスが我が国へ導入された当時、遊撃手側へ位置すると一塁や二塁への送球線上に入りやすいという理由で二塁手寄りの位置が指導されていたが・・・)

 そういう考え方を前提にすると遊撃手寄りに位置したほうが良いかもしれないし、遊撃手寄りの位置を指導(奨励)する方々の理由でもあろう。

 それは「タグしたかどうか」よりも「足が先にベースへ付いたかどうか」を見て判定する従来型のアンパイアリングで一般的なものかもしれない。

 しかし「ベースに足が先に付いたかどうか」も大事だが、実際には「野手が走者にタグをしたのかどうか」の方がより重要なのです。

 タグしたとき、足がベースに触れて(入って)いたかどうかがプレーの判定基準なのはいうまでもない。

 昨今、ピヴォットマンがスライディングして来る走者の足をめがけ、ベースの下へたたきつけるタグよりもスワイプ・タグする場面を多く見かける。

 たたきつけのタグをするには、二塁のピヴォットマンへ常に良い球(ストライク)を投げることが要求される(これはなかなか難しいこと)

 一方、送球が反れたときに起こるプレーは必ずと言ってよいほどスワイプ・タグだ(良い送球でもスワイプ・タグが多く、プレーが進化している)

 そのスワイプ・タグを確認できる(観ることができる)のはどちらの位置が最良か?遊撃手寄りか・・・?二塁手寄りか・・・?

 はたして、遊撃手寄りが本当に良い位置なのか・・・?と云う疑念がわいてくる。

 一塁から二塁へ向かって来る走者へタグをしたかどうかを確認するのだから、二塁寄りへ位置したほうが絶対有利と考えるのは自明の理。

 二塁寄りに位置したときは
(1)スワイプ・タグを確認するには二塁側に位置したほうが適正なアングル(角度)を取れる。
(2)ピックオフ・プレーでランダンが始まったとき、一塁塁審と瞬時に呼応でき的確な対処が可能。
 この場面では、インターフェアーやオブストラクションAが発生するかも知れないので特に注意することが必要だ。
 もしかしたらノー・プレー(That’s Nothing)だってあり得るのだから・・・。
(3)一塁塁審がゴーズ・アウトしたとき、ステップ・アップしながら一塁よりへ二、三歩移動することにより一塁走者のタグ・アップや一塁走者と打者走者双方の触塁を容易に確認できるし、プレーへの対応が容易。
 ※この場合は常にローテーションであることを頭に入れておこう。
(4)6(5)-4-3のWプレーのとき、ピヴォットマンの捕球面を容易に確認できる。
(5)そして、内野内の打球を処理した野手が一塁へ送球するにしても、二塁・一塁での併殺を完結するにしても送球線上に入ることはまずない。
 
 ゆえに走者一塁で、二塁塁審の内野内の位置取りは二塁手側を推奨する。

 しかし、いずれの位置取りも利点と欠点は必ずあるもの。それらを理解していればどちらに位置しても良いと思うのだが・・・、どうだろうか?

 だが、我が国でのそれは各団体の決め事になっていることも確かである。



写真5
3BU:R.Jトンプソンは一・二塁間に位置

走者一塁で、クルーチーフで3塁塁審のRJ.Thompsonは一・二塁間に位置。
一塁走者、二塁盗塁を敢行。Hands on Knee Setで構えたRJは走者が近づいて来るにもかかわらず、捕手の送球動作を注視している。おおいに参考になるシーンだ。
PU:Justin Vogel、1BU:平林岳。2009年7月26日撮影 Alliance Bank Stadium Syracuse, NY.

4.二塁塁審のホース(Wプレー)時のメカニクス

 状況:走者一塁で二塁塁審は内野内二塁寄りに位置。打者は三塁(ショート)へゴロを放った。三塁手(ショート)はWプレーを狙って二塁に送球。

 このときの二塁塁審は、
(1)右足でステップアップ・ターンし、左足をリードして遊撃手に正対してプレーを読むことが肝要。

(2)ショートから二塁へ転送される送球を注視し、二塁ピヴォットマンが球を確保したかどうか、捕球面を見ることが出来る位置までステップする
  (ショート方向へ向かっていくような感じのステップ)
 二・三塁を結ぶ線上が最も良いが、そこまでのAdjustmentは容易ではない。また、よほどスキルが高くないとステップし、止まった時(Pause)プレーが既に完了していることが大半だ。ゆえに目安としては本塁と二塁を結ぶ線上から遊撃手寄りに止まれれば「良」である。



写真6
Wrigley Field、シカゴ/2004年8月26日
屋根下の席からスタジアムを望む。鉄柱が視界を遮断。


1914年4月開場のリグレー・フィールド。アメリカで二番目に古い球場。
外野フェンスに深緑の蔦が絡まり、周りの風景と調和がとれた美しい球場のひとつ。
この屋根の下の席はミシガン湖から吹く風で真夏でも寒〜い。二塁塁審の位置に注目。
フェンウエイ・パークと同じように鉄柱で視界が妨げられ観にくい席がある。
この試合はカブスのSammy Sosaがライト後方に3ランホームランを放ち8-3でアストロズに快勝した。2004年8月26日撮影 Cubs VS Astros at Wrigley Field, Chicago.


 これもAdvanced Mechanicsのひとつで、プレーを読む力と俊敏な動きが要求される。また、このときに気をつけなければならないことが一つある。
 それは、ピヴォットマンがまれに落球することである。

 日・米で「捕球の判定基準」が若干違うとことも検証し、理解しておくことが必要である。

 日本の場合は、送球(或いは飛球)が投げ手に移り、正に転送されようとした時(ボールをリリースする瞬間)の落球は捕球(アウト)とみなされるが、それ以外は落球(エラー)とみなされる。

 一方、米国の場合は、投げ手にボールが移った瞬間に落球してもキャッチとみなされアウトが成立。そのときには「He's Out!」、「It’s pulling He’s out!」 「Pulling it's out!」とコールし「右拳を左手のひらで包んで離す」メカニックをすることが肝要だ。
 (バッター・アウト!捕球でアウトだ!捕球したぞ!とでも云おうか・・・)

 とはいえ、アンパイアーの判断で捕球や落球(アウトかセーフ)がコールされるのは云うまでもない。



写真7
Wrigley Field、シカゴ/2004年8月26日
走者二塁で二塁寄りに位置する2BU

走者二塁で二塁塁審は日本と同様に二塁寄りに位置している。
この場面では、三塁塁審がゴーズ・アウトしたら二塁塁審は三塁へスライドし、一塁塁審は打者走者の触塁を確認し二塁へリミングする。
球審:Mark Wegner 1BU:Mike Everitt 2BU:Larry Young 3BU:Angel Hernandez
2004年8月26日撮影 Cubs VS Astros at Wrigley Field, Chicago.

Enjoy Baseball Umpiring!


(2010年4月1日)


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