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投手と打者の『立ち合い』
巧くいかなかったときの審判の対応


O・K審判員


大相撲の仕切りでは、行事の「はっけよい!」のあと、東西両力士が阿吽の呼吸で立ち上がる。ところが立ち上がろうとする両力士の気合いが合わないシーンをたまに見かける。野球でも同様に、投手と打者に『立ち合い』がある。巧くいかなかったときには、審判はその対応を求められる。


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先日、Sリーグ1部公式戦、強豪チーム同士の試合で立ち合いに関する出来事があった。試合は1回裏。Aチーム1番打者が2ストライク後、次の投球を見逃した。Bチーム投手の投げた球は、ストライクゾーンを通過したので、球審はストライクを宣告し、打者は3ストライク・アウトとなったシーンである。

ストライク・コールのあと、Aチーム打者より「今、待ての意味で手をあげた」とアピールがあった。さらに後日「ボール判定が正しいジャッジではないか?」とお問い合わせも頂いた。根拠は以下の通りである。

公認野球規則 8.05(e)投手が反則投球をした場合      
【原注】クイックピッチは反則投球である。打者が打者席内でまだ十分な構えをしていないときに投球された場合には、審判員は、その投球をクイックピッチと判定する。塁に走者がいればボークとなり、いなければボールである。クイックピッチは危険なので許してはならない。

さて、8.05(e)の適用であるが、球審は、投手が打者を騙す欺くなどの行為をしたか否かを検討すると心得る。

このシーンは、インプレイ中であり、打者はバッターボックス内、投手は投球モーションに入っていた。明らかに十分な構えをしていないにもかかわらず投球モーションに入れば、審判がタイムをかけ投球を止めることもできるが、そうではなかったと記憶する。またBチーム投手に不自然な動き・そのような意図はなかったので、球審は反則投球にならないと判断した。

一方、公認野球規則 6.02(b)打者の義務では、
打者は、投手がセットポジションをとるか、またはワインドアップを始めた場合には、バッターボックスの外に出たり、打撃姿勢をやめることが許されない。投手が投球すれば、球審はその投球によってボールまたはストライクの宣告をする、とある。

【原注】審判員は、投手がワインドアップを始めるか、セットポジションをとったならば、打者または攻撃側チームのメンバーのいかなる要求があっても”タイム”を宣告してはならない。たとえ、打者が「目にごみが入った」「眼鏡がくもった」「サインが見えなかった」など、その他どんな理由があっても、同様である。

このシーンでは、球審は投球判定姿勢に入るにあたり、前の投球のあと、一度投球判定位置を外す、投手のオン・ザ・ラバーを確認し投球判定位置へ入り直す、打者を確認、投球判定姿勢を取るという間合いをとっている。打者が構えるための十分な時間はあった。

Aチーム打者より前述のアピールがあったが、球審は「待て」の手をはっきり確認できなかった、また「待て」あるいは「タイム」の声を聞くことはなかった。打者の手をあげる高さや身振りの大きさには規定は無い。構えた後、クセで手をちょっとあげる打者もいる。打者には大変申し訳ないが、これらは主観的なものになってしまう。

Bチーム投手の立場では、投球モーションに入っているので投球をやめることができない状況である。

処置としては、この状況を鑑み、すでに「ストライク」を宣告しているので、ストライクのままとさせて頂いた。仮に、この判定をアピールがあったからといって、ストライクをボールと変更してしまうと試合をさらに混乱させてしまう。Aチームには、納得はいかないとは思うが、ご理解ご容赦頂きたいと伝えた。

大相撲で例えるならば、まさに立ち合いの呼吸があわなかったというシーンである。

さらに、公認野球規則 6.02(b)を検討していくと、
【原注】走者がワインドアップを始めたり、セットポジションをとった後、打者が打者席から出たり、打撃姿勢をやめたのにつられて投球を果たさなかった場合、審判員はボークを宣告してはならない。投手と打者との両者が規則違反をしているので、審判員はタイムを宣告して、投手も打者も改めて、”出発点”からやり直させる。という記載もある。

今回はストライクを宣告しているので、ストライクのままとさせて頂いたが、上記のような対応もできる。

審判員としては、判定についてここでひと区切りつけたが、このままでは終われない。再発防止のため、相手方バッテリーに打者の打撃姿勢をしっかり目視確認するよう伝えた。試合終了まで、両チーム投手に対して、投球を待てのシグナルを細かく出すなど、立ち合いの呼吸に関するトラブル防止に努めた。

結果、試合は全体を通してとても緊張感とスピード感のあるものとなり、とても爽やかでスポーツマンシップ溢れる試合となった。この対応は両チームに評価して頂いた。


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いま原稿を書きながら、そのときのシーンを思い返すと、打者の投球の見逃し方は、バッティングを行う準備態勢になっていなかったことを考えさせられる。その点では、個人的には、気の毒の判定になってしまったと感じている。Aチーム打者の2打席目以降の活躍を思うと、納得のいかない1打席目だったかと思われる。

先輩審判員(注:詳細に状況を知らない)に意見を求めると、バッテリーだけに注意を与えるのではなく、打者にも注意を与えるべき。という回答も頂いた。とても冷静なアドバイスである。

末尾になるが、お問い合わせを頂いたAチームには心より感謝したい。このようなことがあったとき、疑問に思っても多くの場合はスルーされてしまう。しかしながら、試合後改めて判定について質問を頂くことで、我々審判員は勉強になる。とても有難いことである。


(2012年4月1日)


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