派遣審判員の歴史と今後の展望と役割 審判用マスク
甲斐 雄之助

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 今回は活動のメインとなる軟式野球の審判について述べることにします。

1970年代後半から1980年代は、従来行われて来た連盟大会参加型の野球からサークル型主催が活発になりました。それに伴い企業・団体等の催す大会が増えました。さらに同好者の集まりの「私設リーグ」「ネット大会」へと発展しました。

特に軟式野球は大衆スポーツとして馴染み易く、簡易な球場設備でも楽しむことができます。球場のナイター設備等の充実化が進み、早朝野球・ナイターリーグを含め野球熱か高まりました。

このような状況のなかで、ユーザーのニーズに応える審判組織として我々の活動は重要な社会的責任を負う立場になりました。

審判は単なる趣味の世界ではなく、信頼と責任が絶対要件である「仕事」と認識して、このことを各自が自覚する必要に迫られました。

プロフェッショナルとは職業選手とか専門家を指します。我々は野球審判の専門家としての存在になってしまったのであります。

この組織の使命は、ゲーム維持のための審判依頼を一人制及び複数制(二人制・三人制・四人制)のいずれについても受け入れることであります。

企業・団体等の催す大会は複数制が多かったですが、同好者の催す私設リーグ・ネット大会及び単発の練習試合等は圧倒的に一人審制であります。二人制の依頼は少数で、三人制・四人制は特別の場合を除きありませんでした。

このように前述の依頼を受け、これを審判の専門家(プロフェッショナル)としてこなしていくには、対応するアンパイアリングメカニックの総合的習得と実戦に於いて多くの経験を積み、信頼感のある自己のアンパイアリングテクニックを確立する必要がありました。

プロフェッショナルとして、常に問題意識を持ち可能性の追求のために要する努力とその奥の深さは、審判を志す者の魅力の一つであると確信していくようになりました。

次に、各連盟組織の大会では実施していない、一人制審判についてのべます。この分野での活動は我々組織の独壇場でありました。

審判依頼をするについては、それなりの必要性に於ける価値判断があって当然のことです。一人制は多くの依頼があり、これが事実上活動のメインを占めていることは、この分野の審判がユーザーの信頼に値する評価を受けていると判断できることであります。

実はこの信頼に応えるために、我々は理論上で論ずる審判員の数に対するメリット論及びデメリット論を越えた次元で実戦を捌く経験の中から自分のアンパイアリングを確立する努力を絶えず続け、可能性の追求をしていかなければなりませんでした。

そして、その過程のなかで信頼を得られると思います。何故ならば、不可能性に対する可能性への挑戦は無限であり、審判の判定に於いて完璧性の担保などないからであります。

一人制及び二人制審判で重要な点を挙げれば。
1、判定のメカニックに於いて、判定を要するプレーに対し見通す角度(アングル)と適度の距離を確保すること。特に一人制に於いては最大限の努力をすることになります。

2、ゲームに於けるプレー流れを的確に読み、これに対処する。

3、野手の打球への対処と各走者に対するプレーの流れへの視野を出来るだけ広くとること。そして、如何なる状況に於いても自分がこの時点で可能な総合判断として判定を行うことであります

一人制審判は従来、複数制審判と対比して、理論上に於ける不可能を指摘して邪道視され、レベルの低い次元で視られて来ました。

しかし、現状の軟式野球で我々が受ける審判依頼の数は特別の場合を除き一人制が多いのが実態でありました。

この一人制審判を依頼する理由を聞けば、多くの答えは、複数審判制でも不信な判定はいくらでもあり、ミスジャッジは起きる、一人制で依頼することに不都合は感じない。経験豊かな上手な審判員には安心して試合を任せられると、答えが返って来ます。

このことから判断して、野球の審判は審判員の数だけではなく、基本・技術・知識そして経験の総合能力のレベルがこれについての重要な要件であることが分かって来ました。

我々は一人制審判の精度が劣るレベルの低い低次元のものと言う認識を覆し、審判を志す人の最高目標としてこれを捉えなければなりません。

野球発祥の地アメリカでの最初の審判は一人制でピッチャースマウンドの後方に位置した挿し絵を思い出しました。審判の歴史はここからスタートしたことを銘記したいものです。

我々はユーザーからのニーズと信頼にしっかりと応えることができるアンパイアリングを行うために、そしてメカニックの確立をはかるための模索のなかで、その場をアメリカの審判学校に求めることにしました。
次回はこれについて述べます。

(つづく)

(2010年12月1日)


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