派遣審判員の歴史と今後の展望と役割 審判用マスク
甲斐 雄之助

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 ★一人制審判のメカニック

 一人制審判のメカニックを構成するについての行動理念と原理を次の3項目に分けて説明します。

★1、ゲームの流れ(展開)を的確に読み、想定されるあらゆるプレーに対処できる体勢の維持。これは一点集中形のポジションではなく、一人でゲームの展開に対処できるポジションの維持と言うことであります。具体的な実戦行動は3項目のテーマであるワーキングエリアで扱います。

 アメリカの審判学校では打球及びそのプレーに対する行動過程をポーズ・リード・リアクトの3段階に設定して指導しております。ポーズでは身体を打球及びそのプレーに向け正体して直視し、リードでは状況の推移を的確に読み、リアクトで判定行動に移ります。
 この行動において全体の状況の推移に対応できる距離とプレーを見通せるアングルの保持が大切であります。

★2、プレーの判定に最も重要な課題はプレーを見通す角度(アングル)の維持に努めることであります。一人制審判に於いては、全てのプレーについて見通せるアングルの確保には限界があります。

 この場合に於いては判定に説得力のあるポジションの確保に努め、感性の全てを集中して判定に結びつけなければなりません。ゲーム中最も多く発生する次の例を挙げ、その対処について述べます。

 ノーランナーで内野ごろ、一塁のプレーへの対処は。フェアー・ファウルの判定後、本塁前方、一塁側ファウルラインの内側(インフィールド)にポジションをとり、捕球と触塁を見通すアングルを確保してアウト・セーフの判定を行うと共にインターフェア・オブストラクションの判定、アウトオブプレーの処置をこのポジションで行います。

 これはアウト・セーフの判定に必要なプレーを見通すアングルの確保が最重要であるからであります。ファウルライン際のタッグプレーやスワイブタッグでプレーを見通す必要がある場合は一塁側ハウルライン際へポジションを移します。

 打球が長打(ヒット)であれば二人制メカニックで塁審が打球を追う場合の球審の役割である打者走者への対処ステップワークを行います、これは走者の触塁と走者へのプレーの流れに対処するために適切な距離とアングルを確保するためであります。

★3、一人制審判はその行動に限界があり、行動範囲が限定されます。この行動範囲がワーキングエリアであります。先に二人制審判のメカニックのパーツを基本として一人制審判のメカニックを構成したことについて触れました。

 球審の仕事と塁審の仕事はそのポジションが異なり、この役割を一人で行うので、この役割に応じたワーキングエリアを設定する必要があります。

 投球の判定と打者の打撃行為から発生するプレーをさばく球審のワーキングエリアは一人制審判の基幹であり、ここからプレーの発展を読み、塁審の役割のワーキングエリアである次の2つのポジションのどちらかへ状況を判断して移動することになります。

 このワーキングエリアへの移動は塁上に走者がいる場合のことであり、ノーランナーの場合は前項で述べております。

 (1) 本塁前方からピッチャースマウンドまでのインフイールドのエリアをワーキングエリアとし、一塁と三塁を結ぶ線より先へは出ない。

 (2) 本塁から三塁側パウルラインの外側を三塁方向約3メートルのエリアをワーキングエリアとする。打者走者を含め塁上に複数の走者を抱えた場合には、一人で全てのプレーに対処するため、プレーの流れを的確に読み、一点に集中した行動はとらずプレーの変化に対応可能な距離を保ち、プレーを見通すアングルを確保するための行動エリアがワーキングエリアであります。

 そして、このワーキングエリアは全てのプレーの流れを自分の視野に収め得る状況の場所でなければなりません。従って、2つのエリアのどちらを選択するかは、プレーの流れを見極めて判断することになります。

 (例)1、ノーアウト・走者一塁・内野ゴロが飛んだ場合。このケースでは二塁・一塁へのプレー・ダブルプレーが想定され、(1)のインフイールドワーキングエリアへ進みプレーに対処します。このケースで外野へ飛球が飛んだ場合、(1)のワーキングエリアへ進み、捕球確認のためのアングルをとり、打球が抜けて長打となれば、走者の触塁をみながら、走者が三塁更には本塁を伺う場合はポジションを(2)のワーキングエリアへ移行し、本塁と三塁のプレーに備えます。全ての走者を視野に入れ自分の背中にしないことが大切であります。

 (例)2、ノーアウト・走者満塁・内野ゴロが飛んだ場合。この場合、全ての状況を視野に収め得る(2)の三塁側ファウルラインの外側ワーキングエリアへポジションをとります。三塁から本塁への走者を背にして視野からはずさないこと、このポジションでアングルを保持してプレーの流れに対処し、判定動作へ入ります。

 この例で外野へ長打が飛んだ場合。このワーキングエリアで全てのプレーを視野に収め、走者の触塁を見通し、走者へのプレーへ対処します。この場合で三塁での走者に対するプレーが起これば、三・本間中程からインフイールドへ移行、アングルを保持して判定動作へ入ります。

 この三塁側ファウルラインの外側ワーキングエリアは全てのプレーを見通せるエリアでありますが、安易にこのポジションをとるのではなく、プレーの状況に応じた適切なワーキングエリアの選択が大切であります。

 最後に球審として投球の判定動作から打球の判定、盗塁の判定及び走者への牽制行為の判定行動へ移る時は素早くマスクを外し、判定すべきポジションを保持して、判定を行います。

 これ以外に述べることは沢山ありますが、二人制審判のメカニックから一人制審判へのメカニックのバリエーションにより構成した一人制審判のメカニックについての話を終わります。

(2011年5月1日)

 関連資料
 一人審判の死角(2005年5月1日〜2007年8月1日)
 http://www.mbua.net/sikaku/sikaku_index.html


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