(1) 一人制審判の孤独
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 公認野球規則 1・01「野球は、一人ないし数人の審判員のもとに、行なわれる競技である」(途中略)と明記してあります。

 ということは一人制審判についての「教本」みたいなものがあってもいいはずです。残念ながらどこを探してもないのが現状であります。

 一人制審判の基本は4人制、3人制、2人制各審判の「応用」だとおっしゃる方が多くおります。私も基本的にはそうだと思います。ただ永年一人制審判をやっておりまして「応用」ではすまされない問題点があると思いうようになりました。

 今回は「一人制審判の死角」ということで永い連載になると思います。これは決して一人制審判の「教本」「教科書」ではありません。あくまで体験に基づいた話だと読み流してください。また、選手の皆様にも分かるようにあえて「審判用語」を使用しないで書いていきます。

 私が初めて一人制審判をやったのは40歳前半でした。少年野球の4人制しか経験しておりませんので、とっても不安で試合に臨みました。わけが分からないうちに終わっていたという感じでした。

 それでも慣れていくうちに、この頃は足には自信がありましたので、一塁走者が盗塁をしても2塁の塁上近くで判定することができました。問題は投球を判定すると同時にスタートを切らなければならないので、肝心の投球判定がおろそかになりました。

 投球判定をおろそかにするということは、球審にとって「決定的ミス」であります。このことに気づくのには永い、永い時間がかかりました。

 選手の皆様もそうですが、審判員も「集中・リラックス」を交互に繰り返し、試合に臨んでいます。

 一人制審判の時には、特にランナーが出た場合は神経を使います。このような場面で何回も牽制球を投げられますと、肝心な投球判定に集中できない時があります。人間の集中力は個人差がありますが、そんなに持続できるものではありません。

 新米審判員の頃の「事件」です。実は脳裏にチーム名とグランドはしっかりと焼きついているのです。それほどショキングな出来事でした。

 1アウト、ランナー2,3塁でライトへフライを打ちました。私は3塁ランナーのタッチアップを確認しました。だが2塁ランナーもスタートを切っていたのをチラッと見ました。

 守備側から「2塁ランナーのタッチアップが早い」というアッピールがありました。私は正確に見ていないのに、少し早いかなぁーと思い「アウト」の判定を下しました。2塁ランナーからは「早くない。本当に見ていたのか」と猛抗議が来ました。

 人間の眼は2つしかありません。ライトの捕球と3塁ランナーのスタート。これは確認できます。また、2塁ランナーがワンテンポ遅れてスタートを切ってくれればこれも確認できます。だが同時スタートでは眼があと一つ欲しいところです。

 あぁ、それなのに私はなんで「アウト」と言ってしまったのか、それは守備側の迫力のあるアッピールに負けてしまったのです。

 なんとか攻撃側の抗議をやり過ごして、スコアーボートに1点と書きました。

 今度は守備側からの猛抗議がきました。私の頭の中は完全にパニクッテしまいました。こちらは一人で18人以上を相手にしなければならないのです。この時ほど一人制審判の孤独を感じたことはありませんでした。

 今、考えますと3塁のタッチアップは両チームとも確認しているでしょう。2塁のタッチアップはアッピールのあった2塁手と外野手の一人ぐらいしか確認していないでしょう。2塁手もダメ元でアッピールしたと思います。またランナーも足に自信があったから3塁へ走ったのです。
 
 それを見ていないのに「アウト」と言ったのは、心の隅に「俺は審判員だ!一人でも完璧にやるのだ!」という思い上がりがあったからです。と、同時にまさか2塁ランナーがタッチアップはしないだろうという先入観で2塁ランナーを見える角度を取らないで判定をしてしまったのです。

 球審は大きく後ろに下がりライトからセンターまで見る角度を取っていれば、2つの眼でも確認はできます。

 それでは3メートルも下がればバックネットに突き当たるグランドはどうしたらいいのか。それこそ「一人制審判の死角」になってしまうのです。

 二人制審判ならば、より正確に判定できます。詳細は現在連載中の「二人制審判の教本」の中でそのうち山口氏が書かれると思います。


(2005年5月1日)


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