スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■9 「テイク・ワン・ベース」が…太鼓、沢庵、鉄管ベースに?

 今年のプロ野球のオフシーズンは、横浜ベイスターズの球団身売り騒ぎや主力選手のFA宣言、ドラフト会議で「ハンカチ王子」が日ハムに指名……で、「ストーヴ・リーグは話題満載」だとか。
 そんな言葉をメディアは使ったが、実は「ストーヴ・リーグ」という言葉は、そんな意味ではない。プロ野球のシーズンが終った冬に、ファンがストーヴを囲み、シーズンを回顧して語り合う。それが本来の英語の意味である。

 野球はアメリカ生まれだけに、野球用語の誤用や誤解は少なくない。デッドボールはプレイが途切れたとき(ボールデッドになったとき)のボールのことだが、日本では投手の投球が打者の身体に当たったこと(ヒット・バイ・ピッチ)を言う。フォアボールも和製英語で、英語はベース・オン・ボールズ。ゲームセット(本来はゲームオーヴァ)も野球用語とテニス用語をくっつけた和製英語。
 また、テニスのボレーと同様、ボールを床や地面に落とさず打ち合うのにボレーボール(ヴォレーボール)と言わずにバレーボールと言うのも間違いと言えるだろう。そういえば競馬でスタートのやり直しを「カンパイ」と呼ぶのは明治時代に「カムバック」を聞き間違えた結果らしい。

 私が小学生のころは草野球の事を「太鼓ベース」と呼んだ。関西だけの意味不明の言葉だが、後年東北地方に「沢庵ベース」という言い方があったことを知った。九州には「鉄管ベース」という言葉も。
 これでわかった! それらの言葉のルーツは「テイク・ワン・ベース」に違いない!
 終戦直後、日本を占領した米軍兵士が草野球に興じたときの言葉を、子供たちが耳にしたまま使ったのだろう。
 こんな間違いは可愛いが、スポーツが異文化であることは、時々思い出すべきだろう。


(「損保のなかま」2010年12月1日付より)


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