スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■26 日本スポーツ界最大の問題点

 プロ野球界にまたまた激震が走った。巨人が新人選手の獲得で「最高標準額」と定められていた契約金(1億5千万円)を大幅に上回る金額(ある選手は10億円。97〜04年で6選手に合計38億円以上)を支払っていた、と朝日新聞が報じたのだ。  それに対して巨人(親会社は読売グループ)は「(07年までは)最高標準額は上限ではなく、ルール違反ではない」と反論。「読売VS朝日のメディア戦争」の様相を呈した。
 この問題を、まったく別の視点から考えてみよう。

 アメリカ第3代大統領トーマス・ジェファーソンは次のような言葉を残した。
 「新聞のない政府か。政府のない新聞か。どちらかを選ぶとしたら、私は後者を選ぶ」
 批判精神(新聞=ジャーナリズム)のないところの政府は危険で、政府は存在してなくても言論の自由(新聞)が存在していれば、いずれ民主的な政府が必然的に生まれる、ということだろう。

 「政府」を「スポーツ」に置き換えても同じことがいえるはずだ。なぜなら、プロ野球やJリーグ、オリンピックの競技種目等のスポーツは、すべて「公共の文化財」といえるからだ。その「公共の文化財」が、特定の団体や企業の利益に利用されることなく、社会全体の幸福に貢献するには、新聞やテレビ等のメディアがジャーナリズム精神を発揮し、スポーツの健全なあり方から外れた場合はその運営組織を厳しく批判しなければならない。
 ところが日本のプロ野球や高校野球、マラソンや駅伝大会などは、有力球団のオーナーや主催者がマスメディア自身のため、ジャーナリズムが機能しない。批判のないところに健全な発展はない。それこそが日本スポーツ界の最大の問題点といえるだろう。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2012年5月1日付より)


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