スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■50 飛ぶボール騒動のナンセンス

 「またまた」と言うべきだろう。プロ野球界にツマラナイ事件が発生した。
 統一球の反発係数は、0・4034〜0・4234の範囲内でなければいけないのに今季のボールを検査すると、平均が0・426だったというのだ。
 製造元のミズノは、「芯に巻いたウール糸が乾燥したせいだ」と説明した。
 それを聞いて私は、「ハッハッハッハ!」と呵呵(かか)大笑してしまった。「反発係数が0コンマ幾つ違えば、飛距離が数十センチ違う」なんてことは、どうでもいいことだ!

 今季のボールがよく飛ぶことくらい、プロ野球をちょっと見慣れたファンなら、すぐに気付いただろう。
 右(左)打者のライト(レフト)への打球がオーバーフェンス。それも本塁打が少ない中距離打者や投手がそんな打球を放てば、「飛ぶボール」の「恩恵」以外の何物でもない。今季はそんなホームランが多い。少し目の肥えたファンだけでなく、選手(特に捕手)は誰もが一目瞭然だったはず。
 要は、「プロ野球はどんな野球を目指すのか」という問題のはずが、球界関係者もメディアも「理想の野球」を語らずに、「反発係数が違うからボールが飛ぶ」などと言うばかり。

 「国際基準に合わすべし」というのはしょせん大リーグの規準。それに合わせていないときに、日本はWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で2連覇した。
 私は1対0といったスリリングな投手戦が好きだが、セオドア・ルーズベルト米大統領が言ったように「野球は8対7の試合が一番面白い」と思ってる人もいるだろう。
 どっちを目指すのか。それを抜きにボールの問題を語るのは、ナンセンスと言うほかあるまい。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2014年6月1日付より)


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