スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■53 目標なき日本野球界

 ヤンキースの田中将大投手が深刻な肘の故障に見舞われ、メジャーの中4日での投手起用が「過酷」だとする意見がメディアで騒がれた。
 それも一因かもしれないが、メジャーで日本人投手だけが次々と肘や肩を故障するのは、高校野球での球数の多い完投や連投こそ最大の原因と言うべきだろう。

 それに気付いた結果なのか、高野連は投手の故障を防ごうと動きを見せ始めた。
 タイブレーク方式(延長戦に入ったら、一、二塁などに走者を置き、試合が早く終わる可能性を高める)や、投手の球数制限など、最終的にどんなルールを作るのか、まだ判然としないが、最大の問題は高野連などの野球組織が、選手の最終目標をはっきり規定していないことにある。

 サッカーの場合は、最終かつ最大の目標がワールドカップと定まっている。だから優秀な若い選手を高校の試合で使いつぶす(連続して多くの試合に出す)ことなどは日本のサッカー界にとって大きな損失であり、絶対に許されない行為とされており、そのことにサッカーファンも納得している。

 では、日本の野球界の最終かつ最大の目標とは何か?  
 「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での優勝が目標」という世論はまだ形成されていないし、そもそもメジャー主催のWBCが、この先いつまで続くのか分からない。
 また、選手がメジャーや日本のプロ野球で活躍することも、日本球界全体の目標とは言えないので、高野連にとっては高校野球の盛り上がりが最大の目標となり、母校の勝利を目指し、投手が無理して投げることが美談となる。
 結局はプロ野球から少年野球まで、日本の野球組織がバラバラで統一されてないことが、最大の問題だといえそうだ。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2014年9月1日付より)


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