スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■68 ロシアの「国ぐるみ」ドーピング問題

 ロシア陸上競技界の「国ぐるみ」のドーピングが発覚。選手の告発に端を発し、WADA(世界反ドーピング機構)の調査の結果、ソ連時代のKGB(国家保安委員会)の流れをくむFSB(ロシア連邦保安庁)やスポーツ省の関与まで示唆され、現状のままではロシアの陸上選手は、今年のリオ五輪に一人も出場できなくなる可能性も出てきた。 ドーピングは、現代の国際スポーツ界にとって、もっとも厄介な問題といえる。
 市川崑監督の映画『東京オリンピック』を見れば明らかだが、スポーツ選手の身体は半世紀で大きく「発達」した。昔のスポーツ選手はだれもが我々と同じ普通の体つきを頑張って鍛えたと思える程度の体つきをしていた。が、現在のスポーツ選手の多くは「超人的」な体つきをしている。
 それは筋力トレーニングや合法的サプリメントの開発などによって得たモノともいえるだろう。が、はたしてそれだけか? と首を傾げたくなるような「見事な」体つきをした選手も明らかに存在する。
 1988年ソウル五輪でドーピングが発覚し、選手生命を絶たれたベン・ジョンソンのことは多くの人が知っているだろう。
 が、実は同時期の陸上短距離界の英雄カール・ルイスもドーピング反応が陽性となり、一時期出場停止となったことがある……ということは、あまり知られていない。
 私は『ステロイド合衆国』というドキュメンタリー映画でそれを知った。その映画には、ハリウッドの俳優やプロレスラー、大リーガーなどのプロ選手の間では筋肉増強剤が日常化。ロシアの陸上五輪選手や彼らを指導した医者も「薬はアメリカ製でだれもがやってることでしょ」と内心思っているのかもしれない……。
 このスポーツ選手の現代病には特効薬はなさそうだ。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2016年1月1日付より)


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