スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■75 イチローがメジャーで残した最大の功績とは

 6月16日マイアミ・マーリンズのイチローは、サンディエゴ・パドレスとの試合で2安打して日米通算4257安打を記録。ピート・ローズ(レッズ他)の通算4256安打のメジャー記録を追い抜いた。
 それに対して、ローズは「レベルの低い日本野球での記録を加えることに意味はない」と不快感を表した。確かにメジャーの野球はレベルが高いだろう。が、イチローのメジャー加入後の活躍ぶりを見れば、イチローが早くからメジャーに入っていれば、試合数の多いメジャーで現在より多くのヒットを放ち、さらに短い期間でメジャー記録を塗り替えていたとも考えられる。
 とはいえ、異なる土俵での記録を比べても誰もが納得する結論など出るはずもない。
 メジャー通算安打記録はローズ。日米通算安打記録はイチロー。どっちも偉大な記録ということで、これ以上言い争うこともあるまい。
 が、それ以上にイチローの偉大さを示すのは、彼がメジャー入りして4年後の2004年、シーズン262安打を記録し、ジョージ・シスラーが持つ257安打というシーズン最多安打記録を84年(!)ぶりに破ったことだ。
 シーズン安打記録のメジャー・ベスト10は、イチロー以外すべて1920〜30年の選手。
 この頃ベーブ・ルースが現れ次々とホームランを打ち、メジャーはパワー野球時代となるのだが、それ以前はホームランなど偶然生まれるだけで新聞にも報道されず、本塁打王の表彰もなく、ファンは「野手が手を伸ばしても捕れない球を打つのは卑怯」と主張したくらいだった。
 ホームランより素晴らしいのは野手の間を抜く狙い打ち打法。そんな「古き良き時代の美しい野球」を、イチローはアメリカ国民に思い出させたのだ。それが彼の最大の功績と言えるだろう。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2016年8月1日付より)


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