スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■76 リオ五輪閉会式に安倍首相を登場させた日本は新興国

 リオデジャネイロ五輪が幕を閉じた。
 日本選手団の獲得したメダル数は金12銀8銅21で、合計41個。金メダルの数こそ1964年の東京、2004年のアテネの各大会の16個に及ばなかったが、合計の数字41個は、ロンドン大会の38個を抜いて過去最高。その意味では大いに盛りあがった大会とも言え、2020年の東京大会に向けて期待が膨らんだ大会となった。
 が、閉会式で少々違和感を感じる場面があった。それは映像でドラえもんやマリオといったアニメとともに東京の街が紹介されたあと、土管を通り抜けて地球の真反対にあるリオの町にマリオが現れたときのこと。そのマリオが、なんと安倍首相だったのだ。
北京五輪の閉会式に現れたロンドン五輪を代表する人物はサッカーの英雄ベッカムであり、ギタリストのジミー・ペイジだった。そのロンドン五輪の閉会式に現れたリオ五輪を代表する人物は、サッカーの神様ペレだった。
 なのに、なぜ東京五輪を代表する人物が総理大臣という政治家なのか?
スポーツは常に国家から独立した存在であり、国家(政治家)は国民の権利としてのスポーツを擁護し、援助する立場。そのように脇役である国家の長たる総理大臣が、まるで主役のようにスタジアムの中央に現れ、観客席に向かって手を振ったのは、興醒めする出来事だった。
 リオの閉会式ではIOC会長や小池東京都知事などの背後で「国旗」を振って「国」をアピールする「新興国」の選手たちの姿も少々見苦しかった。  が、組織委の森喜朗会長も元総理の政治家で、閉会式に現職総理を登場させた我が国も、スポーツの場に政治家を持ち込んで恥じない、成熟とは程遠い新興国でしかないのか…?

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2016年10月1日付より)


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