スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■78 「科学的根性」唱えたミスター・ラグビー

 日本ラグビー界のスーパースターである平尾誠二さんが急逝した。死因は癌。
 彼の現役時代から親しくしていた小生は、今年の3月、JリーグのVファーレン長崎が主催するスポーツ・シンポジウムに彼の出席をお願いした。彼がかなり重い病魔に冒されていることは、そのときの酷い痩せ方で一目瞭然。彼自身も、これを最後に一切の仕事を休んで療養する…と語っていた。それから半年あまり。まだまだ若い54歳。ただただ残念と言うほかない。
 「ミスター・ラグビー」と呼ばれた彼の日本ラグビー界に与えた功績は計り知れない。が、なかでも最も素晴らしい功績は、楽しむスポーツを提唱したことだろう。
 ともすれば「死ぬ気でグラウンドに出ろ!」「必死のタックル」などと、「根性論」が横溢していたラグビー界にあって、彼は「楽しいラグビー」を提唱した最初の人物だった。
 と言っても、彼はすべての「根性(気力)」を否定したわけではなかった。
 「ラグビーはボールを支配すると楽しめる。相手にボールを支配されると楽しめない。それをわかってると、必死になってボールを取りに行きますよね。要は理屈がわかっていないとダメ。ただただ必死になれとか、根性を出せと言うのは意味ないですよ」
 そう言う平尾さんに、だったら「古い根性主義」とは違う「新しい根性論」を、何と呼べばいいのか? と訊くと、彼は即座に「科学的根性」と答えて人なつっこい笑みを見せた。
 彼がキャプテンをやったときの神戸製鋼ラグビー部のチームの練習は週2回。あとは個人に練習を任せた。それで7年連続優勝。
 平尾誠二は日本で最初の「体育会系スポーツを実践的に破壊した人物」だったのだ。合掌。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2016年12月1日付より)


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