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 ■7…多数派志向心理
   妻は巨人ファンの夫には背かない…

 父・母・子と巨人ファンの関係について、さらに考察を進めてみると、そこには日本社会における家庭のありようが反映されていて興味深い。

 夫が巨人ファンである場合、妻の49%は夫に同調して巨人ファンであり、「支持球団なし」は44%。他球団支持はわずか7%である。つまり、ほとんどの妻は巨人ファンの夫に対して、自らも巨人ファンとして同調するか、あるいは同調しなくても「支持球団なし」という形で消極的に夫を立てている。


9連覇時代の王選手
 これこそ巨人ファンに見られる特徴なのである。巨人ファンの妻が、「他球団支持」にまわって夫に反発する比率はわずか7%だが、夫が巨人以外のファンの場合、夫に反発して夫が支持する球団以外のファンである妻は24%にものぼる。巨人ファンの夫より他球団ファンの夫の方が、妻に背かれる比率が3倍も高いということだ。

 「調査」全体で父母が一致して巨人ファンであるケースは18%であった。これを低い数値だと錯覚してはいけない。父の巨人ファン比率は36%、母のそれは29%だから、期待値は36×29≒10(%)である。18%という数値は明らかに有意である。つまり、結婚を機に、支持球団なしか他球団支持だった一方のパートナーが巨人ファンの方に吸収合併された結果であろう。
 そして「夫唱婦随」のための努力は多くの場合妻が担ったと考えられるのである。だからこそ、巨人ファンの子どもから見て父が巨人ファンであるケースは75%(父への同調係数)に止まるが(それでも圧倒的に高い)、母へのそれは88%とさらに一段と高くなるのである。

 妻が夫に同調するのは、男女の社会的関係に左右されていることはいうまでもない。日本における23歳から59歳までの女性の約半数が「専業主婦」であって生活は夫に依存している。巨人ファンも例外ではない。
 しかし、それだけの理由なら他球団支持の夫には3倍も反発する妻がいることの説明にならない。だから、妻が巨人ファンの夫に同調する理由は巨人ファンそのものに求められなければならない。その解は「巨人ファンが社会的多数派だから」である。G・タルドは「人間には他者と一致したいという要求がある」と論じているし、S・アッシュは実験を重ねて、「間違っていることに同意してでも、人間には多数派に属したい心理が強い」ことを暴いて見せた。

 巨人はドラマ水戸黄門になぞらえられる。危うい場面はあっても結局は葵の紋所が示されてハッピーエンドに終わるというシナリオだ。
 巨人が作り出すドラマは人生の理想的なモデルだ。苦しくとも必ず花咲く時が来る…そんな思いを共有できる多数派に属する安心感は、人生を意味あるものとする上で貴重な要素なのである。

(「損保のなかま」2002年10月1日号より転載)


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