愛犬 ハッピー物語

(2)ハッピー危機一髪

作 臼井 淳一



 私の名前は祐子といいます。とても平凡な名前です。子供の頃、遊園地などへ行くと「ゆうこ、ゆうこ」とあちら、こちらで呼ばれました。お父さんが付けた名前ですが、石原裕次郎の「裕」の字を間違えて「祐」にしてしまいました。

 一家4人とハッピーが入って、車でキャンプに行ったのは、私が小学四年生のときでした。お父さんもお母さんも、昔、山登りをやっていたので、キャンプは得意です。毎年、夏なると10日間連続して、山の中を車で移動しながら、温泉宿とテント生活を交互に過ごしました。今年は、ハッピーも入りましたのでとても楽しい旅行になりました。

 事件は長野県の秋山郷・和山温泉で起こりました。私たち四人とハッピーで林道を歩きながら蝶やトンボをとっていると、突然、鉄砲を持った人が、遠くから、私たちに鉄砲を向けました。
 お父さんは大きな声で「撃ってはダメだー、熊ではない、犬だー」と叫びました。その声を聞いて、鉄砲を持った人が、私たちの方に来てこんなことをいいました。
「いや,すいません。それにしても黒い犬ですね。今年は熊が多くて、子連れ熊かと勘違いしましたよ。あんたたち気を付けた方がいいよ。この当たりは熊が今朝(けさ)も出たのだから」

 お父さんは平然と言いました。
「大丈夫ですよ。四人と一頭がガヤガヤ歩いているのですから。私はこの鳥カブト山や苗場山にずいぶん登っていますが一度も熊に遭ってないですから」

 その時です。突然ハッピーが「ゥーゥー」とウナリ出しました。やぶの中から「ガサガサ」と音が聞こえました。同時に上の方から「キーキー」と音も聞こえました。わたしはお父さんの手をしっかりつかみました。健ちゃんもお母さんに抱きつくようにしています。

 なんと「ガサガサ」と出てきたのはネコです。キーキーと鳴いているのは、おサルさんです。
 鉄砲を持った人は「いぬ、サル、ネコか。これでキジが出てくれば、ももたろう話ですね」
 わたしは、ももたろうのお話に「ネコ」が出てきたかしらと、おかしくなりました。

 その夜、旅館の人が、お父さんとお母さんが昔、山登りの格好をしてこの旅館に来て、「新婚旅行でしょ」と言われ、お父さんがとても恥ずかしがっていたことを話してくれました。ここの旅館のパンフレットには、弟の健太が取った大クワガタが載っています。

[1999年10月] 


私とハッピー


5月のトリカブトの山々



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