思うがまま…II

臼井淳一
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(2)42.195キロメートルに挑みたい

「お早うございます。可愛いワンちゃんですね。写真を撮らせていただけませんか」
「ハイどうぞ。私も美人に撮ってくださいね」
「ハイ分りました。ワンちゃんですね」
こうして朝の会話が弾みます。


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 何気ない会話やあいさつが実は「防犯」に役に立つのです。池波正太郎の小説の中でもこんな場面があります。
「なに。番頭に面(つら)を見られたって、このドジヤロー、今晩の盗人働きはやめだ やめだ」
【注・盗人働きは2年から3年もの仕込み『下見』がかかる大掛かりなものもあります】

 というわけで空き巣は必ず下見をいたします。わたしは知らない人を近所で見かけましたら必ず「あいさつ」をします。不審な車が自宅付近に止まっていたら、運転手の顔を見るようにしています。

 セコムより 不審な人へ ごあいさつ

 さて、話題を変えまして。陽気もよく、気分よく散歩トレをしているうちに、なんとなく鶴見川の「源流」まで歩きたくなりました。
「よーし。3月に入ると野球審判で忙しくなるので、今日決行しよう。イザ鎌倉だ」と決心しました。


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 30350歩・20・1キロ・3時間59分。自宅から鶴見川源流の往復の歩数・キロ数・時間でした。散歩トレを始めて2カ月でまた「新記録」を樹立してしまいました。

 鶴見川源流までの道程は遊歩道よりは一般道を歩かなければなりません。
 まぁ途中で疲れたらバスにでも乗ろうと思って、ズボンのポケットを確認しましたらいつも入れてあります千円札がありません。

 ここでいつもなら引き返すのですが、あまりの暖かさについつい源流に近い川の流れなどを撮っているうちに、足は自然に源流に向かってしまいました。


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 やっとのことで源流にたどりつきました。距離は約9キロでした。ということは自宅まで9キロ歩かないと帰れません。源流には水がこんこんと湧き出ていました。
 自動販売機で暖かいコーヒーでも飲みたいですが、一文無しでは我慢する以外ありません。


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 晴れていた空が一転して曇ってきました。冷たい風も吹いてきました。下着は汗で濡れているので3回も裏表に着替えましたが背中の汗が冷たくなり乾きそうにありません。

 早く帰りませんと風邪をひいてしまいます。気持ちが焦りますが足が思うように前に進みません。
前方に小高い丘が見えました。よせばいいのに近道と勘違いして登りにかかります。登って降りたら何のことはない元の場所に戻ってしまいました。

 さらに最悪なことに500メートルほど歩いたところで逆方向に進んでいることに気づきました。これも川の流れを見て分った次第です。あぁ恥ずかしい。ここで携帯が鳴る。
「お父さん。1時を過ぎまでどこにいるの」
「うーん。道を間違えて遭難だ。ヘリコプターを呼んでくれ」
「ばーかー」ガッチャン。

 自宅にヨレヨレの状態でたどり着き、食事をむさぶるように食べ、マッサージ器の上で3時間も熟睡してしまいました。身体も頭もスッキリしたところで次の計画が浮かびました。

 それは自宅から鶴見川の河口(東京湾)までの42.195キロメートルを一日で歩くことです。計画は夏の朝6時に出れば夕方には目的地には着くと思います。目的地は生まれ故郷なので友人・知人が大歓迎してくれると思います。

 そんな事を考えていますと
「お父さん。何時まで寝ているの。早く食事すませて」
 デリカシーもロマンもない現実にいっぺんに引き戻されました。

「男はいくつになっても夢をもたなきゃいけねえ。棺桶に夢が一杯でも誰にも迷惑はかからない」(池波 淳一)


(2011年3月1日)



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